OTC類似薬の保険適用外しについて【後編】

― 数字で見える現実と、かかりつけ医としての立場 ―

医師の立場からの分析

― シミュレーション結果が示していること ―

前項のシミュレーションを通して見えてきたことは、
「市販薬の方が安く済む場合もある」
という単純な話ではありません。

正確に言えば、

ごく少量・短期間の処方に限っては、市販薬を購入した方が安く済む。
しかし、処方日数が長くなるほど、医療機関で処方された方が、個人の自己負担は安くなる。

という構造です。

この関係は、来年3月からOTC類似薬に対して自己負担が25%上乗せされた後も基本的に変わりません。

その理由は、
医療機関で処方されるOTC類似薬の薬価と、ドラッグストアで販売されているOTC薬の価格との間に、極めて大きな差がある
からです。

フェキソフェナジンもロキソプロフェンも、OTC類似薬とOTC薬の間には、およそ6倍前後の価格差があります。

この価格差がある限り、OTC類似薬の自己負担が25%増えたとしても、あるいは仮に将来、OTC類似薬が全額自己負担になったとしても、長期に内服する場合には、薬局でOTC薬を購入するよりも、医療機関で処方された方が、個人の負担は明らかに小さくなります。

「受診控え」を起こす制度設計にはなっていない

この点から考えると、OTC類似薬の自己負担を増やすことは、外来受診を控えさせる効果はほとんどありません。

なぜなら、患者さんの立場から見れば、

  • 自己負担が多少増えたとしても
  • 処方された方が、依然として圧倒的に安い

という状況が続くからです。

つまり、今回の制度変更で起きているのは、

患者さんが支払う総額を減らすことでも、
受診行動を変えることでもなく、
薬剤費の負担を「保険」から「個人」に付け替えているだけ

という構造です。

本当に目指すべき方向はどこなのか

もし国が、
「花粉症などの軽症疾患は、医療機関ではなく、OTC薬で対応してほしい」
と本気で考えているのであれば、取るべき施策は別のところにあるように思います。

それは、
OTC薬そのものの価格を下げること
です。

現在のOTC薬は、

  • 多額の宣伝広告費
  • パッケージやブランド戦略

といった要素が価格に反映されており、純粋な薬としての価値以上に高くなっている印象があります。

もし、こうしたコストを抑え、OTC薬の価格が十分に下がれば、

  • 病院を受診せず
  • 薬局で薬だけを購入する

という選択肢が、患者さんにとって現実的なものになるはずです。

保険適用外しの議論の行き着く先に思うこと

ここまで述べてきた議論を踏まえたうえで、「保険適用外し」そのものについての私の立場を、はっきり書いておきたいと思います。

OTC類似薬の保険適用外しが最終的に行き着く先は、医療機関で、これらの薬が処方できなくなるという状態です。

現時点での薬価、現時点でのOTC薬の価格を前提としたまま、OTC類似薬を保険適用外しし、医療機関での処方ができなくなることについて、私は明確に反対です。

それは、現在と同じ負担では、現在と同じ治療が受けられなくなるということを意味します。

言い換えれば、これまで保険診療の中で受けられていた治療へのアクセスが、制度変更によって制限されるということであり、治療を受ける側の権利を侵害していると感じます。

一方で、私は保険適用外しという考え方そのものに、全面的に反対しているわけではありません。

花粉症のように、

  • 症状がある程度自己判断でき
  • 毎年同じ薬を使っており
  • 重篤な疾患が隠れている可能性が低い

こうしたケースについては、医師の診断を受けずに、薬局で薬だけを購入するという選択肢があってもよいと思っています。

ただし、そのためには
現在のOTC薬の価格を、私たちが医療機関で処方しているOTC類似薬と同程度にすること
が前提条件だと考えます。

価格が大きく異なるままでは、

  • 医療機関で処方を受ける
  • 薬局でOTC薬を購入する

この二つは、実質的に公平な選択肢にはなり得ません。

価格が同程度になってはじめて、その薬を内服する人にとって、公平な選択肢が与えられるのだと思います。

当院・理事長としての私のスタンス

― かかりつけ医として、どう向き合うか ―

ここまで、OTC類似薬の保険適用外しについて、制度の背景、具体的な金額、そしてその構造的な問題点を見てきました。

制度がどう変わろうとも、当院が大切にしていきたい姿勢は変わりません。

それは、
患者さん一人ひとりの状況に応じて、最も納得できる選択を一緒に考えること
です。

当院では、

  • 市販薬で十分に対応できる症状なのか
  • 医療機関で確認した方がよい状態なのか
  • 処方薬を使う場合、どの程度の期間が適切なのか

といった点を、「薬を出す・出さない」以前の段階から一緒に考えることを大切にしています。

「病院に来たら、必ず薬を出される」
「市販薬を使っていたら怒られる」
そのようなことはありません。

不安があれば、相談のために受診していただいて構いません。

制度が変わっても、医療の役割は変わらない

OTC類似薬の自己負担が増えることで、患者さんの負担感は、今後さらに強まるかもしれません。

しかし、制度がどう変わっても、

  • 病状を正しく評価する
  • 必要な医療を見極める
  • 不要な医療を減らす

という医療の役割そのものは、変わりません。

「薬」ではなく「人」を診る

薬の値段や制度の話は、どうしても数字が先に立ちます。
しかし私たちは、その数字の向こう側にいる「人」を診ています。

  • なぜその薬が必要なのか
  • どれくらいの期間、使うべきなのか
  • 他に選択肢はないのか

そうしたことを、患者さんと共有しながら決めていくことが、「かかりつけ医」の役割だと考えています。

最後に

OTC類似薬をめぐる制度は、今後も議論や変更が続いていくと思われます。

その中で、
「制度が変わったからこうしてください」
ではなく、
「あなたの場合はどうするのがよいか」
を一緒に考える存在であり続けたい。

それが、私たちが目指す「地域のかかりつけ医」としての姿だと考えるのです。

当院では、患者さん一人ひとりと向き合いながら、その時点で最善と思われる医療をこれからも提供してまいります。