「かかりつけ医」を制度ではなく、現場から考える

かかりつけ医機能報告制度

本年1月から、厚生労働省主導で「かかりつけ医機能報告制度」が始まりました。

これは、各医療機関が「自分たちはどのような医療機能を担っているのか」を整理し、地域の中での役割を見える化していこうという制度です。

この制度は、医療機関を評価したり、順位付けしたりするためのものではありません。
患者さんが医療機関を選ぶ際の参考情報を提供し、地域の中で医療機関同士の役割分担を進めていくことを目的としています。

ただし、この制度は報告そのものがまだ始まったばかりで、現時点では一般の方にほとんど知られていない、というのが実情です。
現在は医療機関側が登録を進めている段階であり、一般の方がその登録情報を閲覧できるようになるのは、登録が一通り終了した後の春以降になる予定です。

そこで今回は、そうした情報が今後周知され、「かかりつけ医」という言葉が、これまで以上に身近なものになるであろうことを見越して、実際に地域で診療にあたっている立場から、「かかりつけ医とはどんな存在なのか」について整理してみたいと思います。

かかりつけ医ってなんだろう

かかりつけ医
— 健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師。

参考:日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/kakari/
※平成25年日本医師会提言の文言を引用

かかりつけ医は一般的にこのように説明されることが多い言葉です。

では、皆さんは「かかりつけ医」という言葉から、どのような医師像を思い浮かべるでしょうか。

何でも診てくれる医師でしょうか。
家族全員を長く診てくれる医師でしょうか。
それとも、困ったときに最初に相談できる医師でしょうか。

人によって、少しずつ異なるイメージを持っているかもしれませんが、現状では上のような医師というよりは風邪をひいた時などに世話になる医者という感じのイメージなのではないでしょうか。

それを踏まえ、ここからは私自身が考えている「かかりつけ医とはどんな存在なのか」についてお話ししたいと思います。

身近にいて、気軽に相談できる医師

私が考えるかかりつけ医とは、日本医師会が提言している通りになりますが、健康や病気について、気軽になんでも相談できる、身近な医師というのが理想だと考えています。

私たちは日々の外来業務の中で、その患者さんが今困っている症状について診察をしています。
もちろん、それが最も大切な業務です。

ですが、外来には、病気そのもの以外にも、さまざまな悩み事を抱えて来られる方がいらっしゃいます。

実際の外来では、

  • 大学病院で手術や専門的な治療を予定しているが、
     病状の説明を受けたものの、正直よく分からず、改めて質問に来られる方
  • 登山や旅行を控えていて、高山病について相談される方
  • 知人から勧められたサプリメントを飲んでもよいのか、
     また本当に効果があるのかを聞かれる方

など、今治療している病気とは直接関係しない健康に関する相談もありますし、

またそれ以外でも、

  • 子育てに関する相談
  • 子供の勉強についての相談
  • 旅行先のおすすめスポット

など、病気や健康とは直接関係がないように見える相談を受けることも少なくありません。

それらの相談にも私はなるべく答えるようにしています。
そういったもろもろの悩み事まで含めて、ざっくばらんに聞くことができる医者。

それこそが、かかりつけ医なのだと思っているからです。

生活の相談と医療判断は切り離せない

こうした、日常の健康相談や生活に関わる話題、そして患者さんとの普段からのコミュニケーションは、単に「話しやすい雰囲気」をつくるためだけのものではありません。

それらは実は、医療の中でとても重要な役割を果たしています。

その役割とは、いざというときに「この患者さんは、専門的な医療が必要なのかどうか」を見極める判断材料を供給するということです。

病気の話だけを切り取って診るのではなく、その人の生活や背景を知っているからこそ、必要な医療と、今は必要でない医療を整理することができます。

この「見極め」の役割こそが、かかりつけ医に求められている大切な仕事だと考えています。

かかりつけ医と専門医の違い

かかりつけ医と対極に位置するのが「専門医」でしょう。
私や森田副院長が所持している糖尿病専門医、当院の越川先生が所持している呼吸器専門医など、様々な専門医があります。
専門医とは高度な知識や経験、技術を有するとして日本専門医機構や各種学会から認定を受けた医師のことを言います。
専門医を取るために専門的な研修を受け、試験などを受け認定を受ける必要があります。

特定のジャンルの専門家。すごい、優秀そう、みたいなイメージがありますが、実際のかかりつけ医と専門医の違いは、医師としての優劣ではなく、担っている役割の違いだと思っています。

専門医は、特定の疾患や領域について、深い知識と高度な技能をもって診療にあたる医師です。

手術や高度な検査、がん治療をはじめとした最先端医療など、専門的な判断や技術が治療成績に直結する場面では、専門医の力が不可欠です。

ですが、専門医の数は決して多くありません。
そのため、その領域の病気を持つ患者さん全員を最初から最後まで専門医が診ることは現実的ではありません。

そこで重要になるのが、かかりつけ医の役割です。

かかりつけ医は、専門的ではないが、広い範囲の医療的知識を持ち、

  • いまの症状は専門的な治療が必要なのか
  • すぐに専門医につなぐべき状態なのか
  • 地域の医療機関で経過を見てよいのか

を見極め、専門医に患者さんを送る前段階を担っています。

この「ふるい分け」は、検査結果や数値だけで行われるものではありません。

  • これまでの病歴
  • 生活背景
  • 患者さんが何に困っているのか
  • 何がいつから変わったのか

そうした情報は、普段からのコミュニケーションがあってこそ得られるものです。

つまり、前半でお話しした「病気以外のことも含めて相談できる関係」や「ざっくばらんに話せる雰囲気」は、単なる人間関係ではなく、適切な医療につなぐための土台でもあるのです。

「町医者は専門性がない」と言われることについて

この役割の違いが、ときに誤解を生むことがあります。

かかりつけ医、いわゆる「町医者」は、こんなふうに言われることがあります。

「最先端医療についていけていないのではないか」
「専門性のない医師なのではないか」

確かに、町の内科医は手術をするわけでもありませんし、がんの最先端治療を行うわけでもありません。
カテーテル検査のような大がかりな検査を行っている医療機関も多くはありません。

ですが、それは「できない」のではなく、「役割が違う」のだと考えています。

「なんでも浅く見る」ことの意味

かかりつけ医の役割は、特定の病気を深く掘り下げることではありません。

むしろ、いろいろな症状や訴えを、広く、浅く、一度受け止めること。
それ自体が、かかりつけ医の専門性だと思っています。

「これって病気かな?」
「様子を見ていて大丈夫だろうか?」
「病院に行くほどのことなのか分からない」

そうした段階で、気軽に相談できる場所があること。

そして、

  • 専門的な治療が必要なのか
  • 生活上の工夫で対応できるのか
  • しばらく経過を見てよいのか

を、患者さんの背景やこれまでの経過も踏まえて整理する。これこそが、かかりつけ医に求められている役割だと考えています。
これは専門医にはできない仕事だと、私は思っています。

「しない」という判断も医療

余談になりますが、かかりつけ医の仕事は検査や治療をすることだけではありません。
検査や治療を「しない」と判断することも含まれます。

これは、普段から診ている、見知った患者さんだからこそできる判断です。

過去の病状や検査結果などのこれまでの経過を踏まえたうえで、必要最小限の検査や治療にとどめる、それもかかりつけ医の役割です。

そのための判断材料は病状だけではありません。
年齢や生活背景といった、その患者さんの社会的な状況も重要です。

たとえば、100歳を超えた高齢の方に、コレステロールを下げる薬を処方するのかどうか。

数値だけで判断するのではなく、その治療が本当にその方の生活の質を高めるのかを考え、あえて「しない」選択をすることが、最善になる場合もあると考えています。

「話しやすさ」が医療の質を高める

私たちが大切にしているのは、患者さんが喋りやすい、聞きやすいと感じてくれることです。

人が纏う空気というのは、確かにあります。
中には、質問しにくい雰囲気を醸し出している医師もいます。

私自身は、「この先生なら、つまらない質問でも嫌がらずに答えてくれそう」と患者さんに思ってもらえる医師こそが、良いかかりつけ医になれると考えています。そして、日頃、そうありたいと思い診療を行っています。

そうした日常的なコミュニケーションの中で培われた「いつでも相談できる」という関係や、そこで得られる情報は、病気を診断する際のより細かい判断材料になり、最終的に病気の早期発見や早期治療につながるのではないかと思っているのです。

日敏会が目指す「かかりつけ医」

私たちは、患者さん一人ひとりの生活に寄り添いながら、

  • 必要な医療を見極め
  • 不要な医療を減らし
  • 専門医療と地域医療をつなぐ

そんな役割を果たす「地域のかかりつけ医」でありたいと考えています。

病気だけでなく、人を診る医療を。

これからも、いつでも相談できる身近な医療の窓口として、地域の皆さんと向き合っていきたいと思います。